修善寺温泉 新井旅館

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 修善寺シリーズの最後です。こちらも修善寺を代表する老舗「新井旅館」。明治5年に酒造蔵元から養気館「新井」として創業した、歴史のある旅館。修善寺に数ある旅館の中では唯一、国の登録有形文化財があり、全部で15棟の建物が指定されています。

 実は修善寺で泊まる旅館を選ぶときに、前に紹介した菊屋と、どっちにするか悩みました。ネット情報を調べていたら、ここ新井旅館は館内のガイドツアーをやっていることがわかりました。そういうわけで、宿泊は菊屋へ。翌日は新井旅館で見学することにしました。

 ちなみに、文化財登録されているのは、青州楼、雪の棟、渡りの橋、霞の棟、桐の棟、月の棟、甘泉楼、紅葉、山陽荘、天平風呂、あやめの棟、花の棟、吉野の棟、観音堂、水蔵の15棟です。

 約40分ツアーで、当然のことながらすべてを見ることはできませんし、建物毎に説明してくれるわけではありませんので、個々の名称は、あてずっぽうのものもあります。もしかしたら間違っているかも知れません。なお、ガイドツアーの料金は1,500円でコーヒーなどのソフトドリンクがついています。

新井旅館
1881(明治14)年 ~ 1943(昭和18)年
登録有形文化財
伊豆市修善寺970
撮影 : 2014.4.23
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 ツアーで貰った館内マップです。クリックすると大きくなります。

月の棟
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 新井旅館の本館になっている「月の棟」。玄関ロビーとフロントやショップがあります。平等院鳳凰堂を模したといわれる玄関周りなど,典型的な和風旅館の外観をしています。1960(昭和35)年にコンクリート造りに改築されました。国の登録有形文化財の木造、一部鉄筋コンクリート造り、地上3階、地下1階建て。

月の棟
1919(大正8)年 / 1960(昭和35)年改築
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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青州楼
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 新井旅館では最も古い建物で、六角塔が修善寺全体のシンボルになっています。唐破風付きの城郭風建築で,近くからは全貌が見にくい位置に建っていますが、修善寺の街の各所から六角塔を見ることができます。

 いつからいつまでかは不明ですが、若干23歳で新井旅館の棟梁になり、50年間宿の建物を手入れし見守ったという、大川正平氏が次のように書いています。

 「木造の木組にして礎石の上へ土台なしで立柱した古い様式で建てられ、礎石は安山岩の岩盤まで掘り下げ大石を積み重ね、中心の柱四本はその上に立っている。」国の登録有形文化財の木造3階建て。

青州楼
1881(明治14)年
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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 「月の棟」から中へ入りロビーで案内を待ちます。あらかじめ前日に朝10時のツアーを電話予約していました。着いたころは、宿泊客のチェックアウトが終わりかけ。数人とすれ違いましたが、ツアー参加の外来は、結局私たち二人だけでした。
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 玄関脇にある階段。地下を通って道路の北側にある「甘泉楼」とつながっています。
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 樹種豊かな庭は新井旅館の特徴。4月というのに紅葉のような景色です。
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 「月の棟」から「青州楼」に向かう幅広の廊下は、美しい庭に面し喫茶を兼ねています。せせらぎを超え池を巡る雰囲気は素晴らしく、一見の価値があります。
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 最後にここで珈琲とお茶菓子のサービス。ツアーの案内は40分ほどですが、ここで時間を気にせず、ゆっくりできました。

渡りの橋
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 「月の棟」と「雪の棟」とを連絡する屋根付きの太鼓橋。床は小さな幅の板を目透かしに貼って下を流れる水を見せるようになっています。また橋を長く見せるために「月の棟」側を幅広に、「雪の棟」を狭くするという工夫もなされています。つながる「月の棟」の廊下とともに、宿泊客が来館記念の写真を撮るベストロケーションです。 国の登録有形文化財の木造平屋建て。

渡りの橋
1899(明治32)年
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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雪の棟
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 渡りの橋を渡ると「雪の棟」。敷地のほぼ中央にあり、客室と附属する浴室棟からなっています。浴室棟はムクリ付の入母屋の屋根に煙だしの小屋根を載せた特徴的な建物です。第1期の増築部分。国の登録有形文化財の木造2階建て。

雪の棟
1899(明治32)年
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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霞の棟
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 中に入ることができませんでしたので、定かではありませんが、多分、「霞の棟」と思います。「雪の棟」の南方にあり,南は桂川に面しています。国の登録有形文化財の木造3階建て。

霞の棟
1899(明治32)年
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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 桂川からははっきりと霞の棟を識別できます。
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 これらの部屋や廊下は、多分「雪の棟」です。
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 2代当主が造成した池泉庭園の両側に二つの建物が増設されました。「華の池」の真ん中にあるのは「乙姫島」です。

花の棟
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 「華の池」を挟んで「桐の棟」に向き合って建っています。南側は桂川を望み、目の前に竹林の小径が広がる、景観が素晴らしい部屋が並んでいます。数寄屋風の趣をもち、大正から昭和期の日本画家で、 前田青邨と並ぶ歴史画の大家である安田靫彦(やすだ ゆきひこ、1884 - 1978)の監修といわれています。国の登録有形文化財の木造2階建て。

花の棟
1934(昭和9)年
登録有形文化財
設計指導 : 安田靫彦
施工 : 不明
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 手前が花の棟、向こうは吉野の棟でしょう。

桐の棟
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 「華の池」の北側は「桐の棟」。「花の棟」に向き合ってペアのように見えますが、こちらは大正期でずいぶん古いものです。基礎が池に没するくらい床下が低く、真壁造りの南面を水面に映しています。国の登録有形文化財の木造2階建て。

桐の棟
1916(大正5)年
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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天平風呂
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 「青州楼」の南、「あやめの棟」との間に建つ総檜造りの浴場。4間×4間の小ぶりな建物ですが、檜の丸柱と石の組み合わせが野性味あふれる、半地下のユニークな浴室です。ネット情報では、3代当主と親交が深かった安田靫彦がが、ビザンチン様式の計画案を天平様式に変えて、自ら設計にあたったそうです。国の登録有形文化財の木造平屋建て。

天平風呂
1934(昭和9)年
登録有形文化財
設計 : 安田靫彦
施工 : 不明
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 半地下なので窓が半分水没状態。浴場内から池の鯉が泳ぐのを眺めることができます。
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 バー。
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吉野の棟
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 手前の「花の棟」の西向こうに見えるのが「吉野の棟」。敷地の西南端に建つ離れ風の客室棟で、「花の棟」と連絡はしていますが,別個の玄関があるそうです。国の登録有形文化財の木造2階建て。

吉野の棟
1935(昭和10)年
登録有形文化財
設計指導 : 安田靫彦
施工 : 不明
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あやめの棟
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 「天平風呂」の南、桂川沿いに建つ客室棟。地階に「あやめ風呂」があるそうです。「あやめ風呂」は,「天平風呂」と同様に池に面し,池中が見える仕組みになっているとか。国の登録有形文化財の木造、一部鉄筋コンクリート造り、地上2階、地下1階建て。

あやめの棟
1932(昭和7)年
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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甘泉楼
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 今まで見てきたのは県道18号線の南側ですが、県道を北に渡ったところにも3棟の有形文化財があります。

 北側修禅寺寄りの敷地に建つメイン建物が「甘泉楼(かんせんろう)」で,「月の棟」とは地下通路で結ばれています。1階は元の大浴場で、現在は温泉プールになっているそうです。2階は120畳の舞台付大広間。南面と北面の柱1本置きに舟肘木を付け,外部に硝子障子を隙間なく配置した印象的な外観です。国の登録有形文化財の木造2階建て。

甘泉楼
1924(大正13)年
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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 県道に面した1階部分は最近改造されています。ストリートビューには昔の風景が残っています。改造して土産物屋かなにかにするんでしょうが、どう見ても風情は以前のほうがよいです。

紅葉
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 「甘泉楼」の北西に建つ平屋の離れ風の客室。甘泉楼」とは渡廊下で結ばれているとか。京風を意識しているようです。国の登録有形文化財の木造平屋建て。

紅葉
1927(昭和2)年
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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山陽荘
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 「紅葉」の北,敷地の一番奥部の山側にあります。新井旅館には数々の著名人が宿泊していますが、とくにお気に入りだった日本画家の横山大観が居室兼アトリエとして使う目的で建てられた離れです。

文化遺産オンラインでは「大観ギャラリー」として開放されているとありますが、そういう気配は感じませんでした。国の登録有形文化財の木造2階建て。

山陽荘
1928(昭和3)年
登録有形文化財
設計・施工 : 不明
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 他にも観音堂と水蔵という有形文化財があるのですが、見ることはできませんでした。

 伊豆半島のシリーズはこれで終わり。次は福岡県です。
by gipsypapa | 2014-09-13 11:15 | 建築
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