長八記念館(浄感寺)

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 今回の松崎町訪問の一番の目的は入江長八の「鏝(こて)絵」を見ることでした。漆喰を使って左官職人が「こて」で仕上げるレリーフ絵のことです。題材となるのは福を招く物語や花鳥風月が多く、漆喰を極彩色に仕上げたものがほとんどです。日本で独自に発展した技法といえます。まず訪れたのは長八記念館。すぐそばに長八美術館があります。
長八記念館(浄感寺)_c0112559_934553.jpg 一般に、洋館でも天井の真ん中にメダリオンと呼ばれるシャンデリアを吊り下げる丸い天井飾りがあり、それにレリーフが配される例は多く見られます。和風建築にある「こて絵」は天井のみならず、壁などの装飾にも使われていて、当時はまだしまも、今は芸術的な価値が認められる一つのジャンルになっています。

 最初に鏝絵を意識したのは5年前に愛媛県八幡浜市の旧白石和太郎邸洋館でした。それ以来、どちらかというと、妻が見たいと言い続けていたため、今回の松崎訪問になりました。

 松崎町は、鏝絵を芸術の域に高めたといわれる、名工(左官職人)で工芸家の入江長八(いりえ ちょうはち、1815(文化12)年-1889( 明治22)年)の生まれ故郷であり、数多くの作品が現存しているためです。

 ちなみに、鏝絵で有名なのは大分県宇佐市安心院町(あじむ)。長八の弟子だった青柳鯉市が、出身地の大分に帰郷して、長野鐵道、山上重太郎や佐藤本太郎などの腕のいい左官職人を育てたことから、明治初期から盛んに描かれるようになり、今も約80~100ヶ所に鏝絵が存在しているそうです。いつか訪ねたいものです。

 最初に訪れた長八記念館は、浄土真宗西本願寺の末寺である浄感寺内にあります。浄感寺は長八が幼少のころ正観和尚が始動した塾で学んだところ。

 その後、左官の修行をし、東京に出て左官仕事や絵の勉強をして、日本橋茅場町の薬師堂の改修工事で、左官と鏝絵の仕事が評判となり名声が高まったときでした。

 長八は弘化2年に郷里松崎の浄感寺本堂が再建されるのを知り、恩師正観和尚報いるべく、江戸から弟子2名を引きつれて工事に加わりました。その時に残した天井絵や漆喰細工などが今も残っています。ちなみに長八の墓はこの浄感寺にあります。本堂は木造平屋建て。

長八記念館(華水山 浄感寺)
1847(弘化4)年
設計・施工 :森富蔵(棟梁)、宮口兵五郎、宮口半兵衛(脇棟梁)、入江長八(採色)
賀茂郡松崎町松崎234-1
撮影 : 2014.4.21
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 長八の鏝絵だけでなく、本堂も見どころがあります。

 柱から横に突き出した部分の彫刻は「木鼻(きばな)」といわれるもので、柱の頂部に梁を横に通したときに両側に突き出した部分で、木の端を意味しています。

 鎌倉時代には単なる張り出しだったようですが、室町時代になってこういう装飾的なものが出てくるようになりました。

 最も華やかなのは日光東照宮でしょう。(←のリンクの最後の画像。)

 動物系では獅子鼻、獏(ばく)鼻、龍鼻や象鼻などがあり。この浄感寺の木鼻は象か獏(ばく)でしょうが、両方とも牙があるので、どっちか定かではありません。

 いずれにしろ手の込んだ彫刻で、長八以外でも見どころはあるお寺でした。これらは工事に参加した彫師の石田半兵衛と江戸由二郎の作と思われます。

 なお、↑ に書いた施工者の名前は当時の軒札が残っていて、そのデータです。長八が左官ではなく、彩色という職名を使っているのは、すでに自分を左官ではなく、絵師と認識していたからだろうといわれています。
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 鏝絵と欄間の彫刻。
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 雲竜。弘化3年、32歳に描かれた巨大な天井画。鏝絵ではなく墨絵です。
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 飛天。同時期の作で、こちらは正真正銘の鏝絵です。ちょっと見にくいので・・・
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 最近古本で購入した「伊豆長八の世界」の・・・
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 中表紙をどうぞ。

 ちなみに入館料は500円でした。
by gipsypapa | 2014-08-22 09:51 | 建築
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