皇居を正面にして建てられた帝国ホテルは総面積34,000㎡余の大建築で、中心軸上に玄関、大食堂、劇場などの公共部分が列ねられ、左右に客室棟が配されていた。全体計画から個々の客室に到るまで、きわめて多様な秀れた空間構成がなされ、それまでの建築空間が主として平面的なつながりであったものを、立体的な構成へと発展させた世界的に重要な作品である。 この中央玄関は、建物の特色をよく遺しており、軒や手摺の白い大谷石の帯が水平線を強調し、またその帯が奥へ幾段にも重なって、内部空間の複雑さを予想させる。大谷石には幾何学模様の彫刻を施し、レンガには櫛目を入れて、柔らかで華麗な外観を現出している。 レンガ型枠鉄筋コンクリート造とも言える構造であり、複雑な架構に鉄筋コンクリートの造形性が生かされた作品である。移築に当たっては、風化の著しい大谷石に代えてプレキャストコンクリートなどの新建材も使った。 メインロビー中央には三階までの吹き抜きがある。中央玄関内の全ての空間は、この吹き抜きの廻りに展開し、その個々の空間は、床の高さ、天井の高さがそれぞれに異なっており、大階段、左右の廻り階段を昇る毎に、劇的な視界が開かれる。 建物内外は、彫刻された大谷石、透しテラコッタによって様々に装飾されている。特に左右ラウンジ前の大谷石の壁泉、吹き抜きの「光の籠柱」と大谷石の柱、食堂前の「孔雀の羽」と呼ばれる大谷石の大きなブラケットは、見る者を圧倒する。 吹き抜かれた大空間の中を光が上下左右に錯綜し、廻りの彫刻に微妙な陰影を与え、ロビーの雰囲気を盛りあげている。 博物館明治村 帝国ホテル中央玄関 1923(大正12)年 登録有形文化財 設計 : フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright) 施工 : 大倉土木 旧所在地 : 東京都千代田区内幸町 犬山市内山5-67博物館明治村内 撮影 : 2011.9.22 & 2012.3.10 帝国ホテルの設計には、後にライトの後継者となり、数多くの素晴らしい建物を日本に残した、若き遠藤新、アントニン・レーモンド、田上義也、土浦亀城らが様々な形で参加しており、いわゆるライト系といわれる優れた建築家を生み出すきっかけとなりました。当時の日本建築界は長くコンドルの流れをくむ古典様式主義が主流でしたので、ライトのプレイリースタイル(草原様式 Prairie Style)という斬新な形状美は、若い建築家たちには驚きととも受け入れられ、強く心をつかんだに違いありません。 この建物は明治村でも最大の見どころ。正門から順番に見ていくと最後に到達する位置にあります。内部には喫茶室があり、歩き疲れた足を休めるのにお勧めです。 約3か月間に渡って紹介してきた明治村シリーズは、今回で終わります。
by gipsypapa
| 2012-12-04 13:24
| 建築
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